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本城直季 (写真家)


本城直季は、都市や建物をミニチュアのように見せる作品で知られる写真家だ。

大判カメラのアオリを使って撮影された彼の写真では、どんな重厚な建物もどこか現実感を失い、作りものっぽく見える。私たちは、その変化に驚きながら、飽きることなく写真の隅々、ディテールの一つ一つまで眺め入ってしまう。

そんな周囲の関心の高さをよそに、本人はいたってマイペース。少し照れながら話す中には、決して大仰な言葉は出てこない。けれど、「撮りたくないものは撮りたくない」という頑固な一面も顔を覗かせる。

本城さんが作り続けたい作品とはどんなものなのか。ポップな色彩で、一見かわいらしいこれらの作品はどんな思いで作られているのだろう。近藤と2人で話を聞きに行った。(サトコ)

本城氏の近作。愛知万博を撮影したシリーズの1点

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僕たちは作られた世界に住んでいる


近藤:本城さんの写真は距離感が面白いですね。いつも遠くから撮っているので、「神の視点」っぽい感じを受けるのですが、写真を撮る視点と、実際に自分が周りの世界を見る視点に近いところはありますか?

small garden

本城:「観る」という行為は好きです。実際の風景もそうだし、映画や写真、絵画や漫画などの表現された作品も。昔から、自分とは別の遠い所から観ているような客観的な視線で物事を見る機会が多かったと思います。

自分が住み続けている東京を観ていて、ウソっぽいというか、何というか、作られてる感じがしたので、学生の頃の初期の作品は、都市の作られてる感じを表現したいというテーマで撮っていました。初めて自分が、作られた都市に住んでいると実感したのは14歳の時でした。

母親が死んだ時に、家にいるのが辛くて夜の街を自転車で徘徊していたら、ビルやマンションがやたらと高く感じられて、何か押し迫ってくるような感覚を覚えました。その後も、この東京という都市に何というか、違和感のようなものを抱いてきたと思います。大学時代の、夜の住宅街を撮影したシリーズでは、なるべく住宅街をセットみたいな感じで撮ろうと思ってやっていました。

サトコ:この頃から、手法は違ってもテーマは一貫しているんですね。

本城:そうかもしれませんね。

近藤:写真を使った現代アートの作家には、本城さんとは逆の方法で作品を作っている人もいますよね。紙で組み立てた模型を本当っぽく撮るトーマス・デマンドとか、日本人でも、小粥丈晴(+雄川愛)さんは、架空の観光地の風景を模型で作って、それを写真に撮っている。そんな中で本城さんが今、「small planet」というシリーズ作品を撮影しているのは、なぜなんでしょうか?

本城:撮るということを通して、作られた世界に住んでいることを再認識しています。東京ってあまりにも大きくて複雑なのではっきりとは見えないけど、僕たちはすでに誰かに作られた世の中に住んでいて、何の疑問も持たずに、それを前提として当たり前のように暮らしている。たぶん、自分が写真をやっていなかったら、そうした事に気づかなかったと思うんです。「写真」という表現によって、初めて客観的に認識できる。

近藤:自分の写真をこう見て欲しいという思いはありますか?

本城:元々、そこまで見た人の反応は意識していませんでした。でも、撮っているうちにこのミニチュアっぽい第一印象に対する周囲の反応が強いということが分かってきて、自分でもそっちの方を強く打ち出すようになりました。今は多くの人に楽しんで見てもらえればという風に思ってます。

SWEDISH WORLD

近藤:本城さんは今、フィルムで撮っているわけですが、デジタル写真についてはどう考えていますか? 今後、自分でも取り入れてみようと思いますか?

本城:僕の場合、撮影はフィルムですが、その後の工程はデジタルの作業です。デジタルも銀塩も、ほとんど自分では意識する事なくやっています。

ただ、今のデジタル写真のほとんどは単に銀塩をデジタルに置き換えただけで本質的には何も変わってないので、デジタルだ、銀塩だ、って議論する事は何の意味もない気がします。

小林のりおさんみたいに、デジタルだからこそという作品を撮っている人は、実際は少数派なのではないかという気がします。

2

もし、戦争をミニチュアのように撮ったら…


サトコ:今撮りたいもの、これから撮っていきたいものはありますか?

本城:ずっと撮りたいと思っていた愛知万博をこの前、撮ってきました。観覧車から。

近藤:本城さんが万博を撮るってのは皮肉ですね……(笑)。

サトコ:各企業があれだけ力を入れているブースが全部、ミニチュアに見えるんですものね。

本城:あの、作られた、人工的な感じがうってつけだと思って(笑)。あとはハワイのワイキキビーチとか。それと今、戦争を撮りたいというのはあります。本当に皮肉で……。

サトコ:それは本当に強烈なメッセージですよね。あと、写真家にも、広告などの商業写真家から純粋なアーティストまで色々なタイプがいると思うんですが、ご自身はどういうポジションで仕事をしていきたいと考えているんですか?

本城:広告の仕事にも興味はありますけど、広告だけをやろうとは、そもそも考えていなかったんです。とにかくまずは作品を作ろうと、そういう気持ちでずーっとやってきて、それでそのままデビューしちゃった感じです。

近藤:広告の仕事の作品も、個人作品にもあまり差がないというか、切り替えていない印象を受けますが、自分の中でもそれは変わりないですか?

本城:仕事の依頼によっては「それは撮れないです」と言うこともあります。そう考えると、「作品」はずっと作っていきたいと思っています。

3

MY SOURCE/FUTURE SOURCE


水野学さん

大学を出てからの仕事はgdcの水野さんから広がった。

たま

中一のときに初めて買ったアルバム。自分らしいセレクト。

「宇宙からの帰還」

立花隆著。人の精神的な面を深く書いてある本。

ホンマタカシ

初めて共感できた写真家。「写真って自分の考えを表現できる手段」と気づかされた。

大学

東京工芸大学。この学校に通っていたから、今の自分がある。


>水野学さん
デザイナー。広告やプロダクトデザインなどを手掛けるグッドデザインカンパニー代表。「大学を出てから今に至るまでの出来事は、スウェーデン大使館の仕事を始め、多くが水野さんを基点にはじまりました。そういう意味で、重要なきっかけをくれた人です」

>たま
中1の時に初めて買ったアルバムが「たま」だった。「普通はアイドルものを買うところ、そういうどこかマイナーなものを選ぶのが自分らしいと思って」

>立花隆『宇宙からの帰還』
NASAの宇宙飛行士達の実体験を取材したノンフィクション。「直接影響を受けたかわかりませんが、人間の精神的な面を深く掘り下げて書いてあって、宇宙飛行士の帰還後の精神の変化についての記述が深く印象に残っています」

周りの友達

面白い表現者の友達に、活躍して欲しいと思っている。

小林のりお

その行動力と、デジタルの考えに共感。

リサイクル

自分の身の回りのことぐらいはできないと。

浮世絵

構図など、写真を撮るときの参考にします。

北京、上海

まだ行ったことはないけど、すごく興味を持っています。


>周りの友達
「自分の周りには面白い写真を撮る友人がたくさんいて、彼らにどんどん活躍して欲しいと思っています。中年女性を撮る牧野智晃君、豚を撮る渡辺一城君など。世の中には、まだ知られていない面白い表現者が大勢いる」

>小林のりお
写真家。'52年生まれ。4×5を使った郊外写真より、近年はデジカメを使った作品作りに移行した。代表作に『Digital Kitchen』など。「デジタルに対する考え方が凄くストイックで、アンチ銀塩、さらに言えばアンチ既成社会なところに惹かれました」

>リサイクル
「写真とは直接関係ないですが、リサイクルの『循環する』という考え方がとても大事だと思っているので。ゴミのことも、お金でも、人の流れでも、何でも。そう思って挙げました」

>浮世絵
「写真を撮る時に、風景を描いた浮世絵を参考にしたりするんです。浮世絵は構図が分かりやすいですよね、凄く」

>北京、上海
「まだ行ったことはないけど、興味があります。被写体としても面白そう」

1978年生まれ。東京工芸大学芸術学部写真学科卒業、同大学院芸術研究科メディアアート修了。人物や建造物をミニチュアのように撮る独特の手法で人気を集め、現在雑誌や広告の分野で活躍中。これまでスウェーデン大使館のポスターや、三井不動産「Shibaura Island」の広告、雑誌では「コマーシャル・フォト」「広告」「PAPER SKY」「BRUTUS」などに写真が起用されている。2004年にはスウェーデン大使館にて展覧会「swedish style」、2005年5月にはsuperstoreにて展覧会「small garden」を実施した。2003年富士フォトサロン新人賞奨励賞、2003年エプソンカラーイメージングコンテストスチューデント賞、2004年写真新世紀佳作などを受賞。

インタビュー:サトコ(TS)、近藤ヒデノリ(TS編集長)
写真:NOJYO
場所:superstore(九段下・松岡九段ビル)
日時:07/09/05

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