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パッショネイトなもの
後藤:自分が世界に対して感じていることを色で伝えたり、小津安二郎の映画のように、「静けさ」が武器になる人もいます。在本さんは、自分の写真の特徴は何だと思いますか?
在本:一つは滑稽さ、もう一つは、やっぱり色気ですね。それは特に人を撮る時に思うんですけど、視線から出る色気。目の表情から出てくるやさしさと色気のまざったところが好きだなと。それは男でも女でも子どもでも。モデルクラブの子をずっと撮っていて、それは強く感じました。
後藤:それも、ただ単にかっこよく、きれいに撮るのではなく、ブラジリアンのハーフの子だったりすれば、ある種、かっこよさと悲しい感じがないまぜになってるものへのピュアな愛情がそこにはある。それはエモーショナルであり、パッションを感じます。
在本:そう、パッショネイトなものですね。
後藤:その表情だったり、目の力を掴みたい。写真は、光が決めるじゃないですか。強い光だと影が強くなるわけだし、バリッとしたものになる。今回のアフリカは、欲しい光でしたか?
在本:時間帯によってずいぶんちがうんだけど、日中は、極端に強いんですよね。その時撮ったものは、わりとありきたりのものだと思う。で、やっぱり落ちかけた時の感じがいい。
後藤:斜光。それはやっぱり、パッショネイトというか、エモーショナルな感じがするということなんだね。
在本:黄色い空気ですよ。あとは水。今回は水を撮ってくるというのが一つのテーマだったんですけど、貴重なだけに、水があるところってすごく美しかった。
後藤:人間と同じくらい、それって色っぽかったですか?
在本:夜のニジェール川! あれは撮ってよかった。昼間はアマゾン川と一緒で茶色なんです。それが暗くなって、月の光が水面に反射して、青白い感じになるんです。それは本当に色っぽい。鏡のようでした。
2
私の美しい人
後藤:プリントしてからよく見えてくるものもあると思いますが、現時点での手応えはどうですか?
在本:さっきざーっと見ただけですけど、一枚はこれはよかったというのはあった。ニジェール川を渡る時に乗った大型の筏の船頭さんが、いつもラジカセを聴きながら操縦してて、そのラジカセにもたれかかって、手前にいっぱいカセットが散らばってて、こっちを見てるっていう写真なんだけど、もう撮ってる時にいいなって思ったんですよ。その人が、気が合ったから。実際見たら、思ってたよりよかったので、あ、これは一枚になったなと思ったんですけど。
後藤:それは、あなたの一番美しいところを私は記録した。そういう感じの写真ですか?
在本:ちょっとちがいますね。
後藤:今まで自分がいいと思う写真は、そういうふうな感じがしますか? そういうところが強いと思いますか?
在本:あんまり思わないです。
後藤:それはどうしてでしょう?
在本:そういうのはあんまり求めてないんですよね。
後藤:もちろん、観光写真みたいなものともちがう。私の観光写真があればいわけだから。つまり、私の美しい人がいればいい。
在本:そういうことなんだと思います。彷徨う人とか。
後藤:どんな人? 彷徨う人というのは自分のことですか?
在本:自分が投影してるのかもしれない。例えば、グリーンランドの空港の待合室で座って自分の乗る時間を待ってる盲人の写真とか。ああいうのはやっぱり、自分の投影だったりするんですよね。
3
MY SOURCE マイ・ソース
旅
何を隠そう、これがなければいまの自分はない。私の学校。
picnic in cony island
ナン・ゴールディンの昔の写真、あのムードがとても好きです。
インド、南米
この二つの場所を旅して得たものはあまりに大きい。週一度行っていたイタリアよりも、ひょっとしていろんなことを感じ取った所かもしれない。
ヘドヴィク&アングリーインチーズ
劇場で見たときに私に刺さった映画です。これまでに他にもいくつかの映画に刺されて、強い影響を受けましたが、この映画は、見たタイミングがよかったせいで、自分を今いる方向に解放してくれるきっかけになりました。映画を見終わった後シネマライズの前で、動けず、おさまるまで声を上げて泣いていました。
エリス・レジーナ
彼女の歌声、何度聞いても元気が湧いてきます。
そして南米での長い旅の間に聞いて伸びたテープの音を思い出します。
4
「移動している自分」がテーマ
後藤:在本彌生の写真はバラバラな印象があって、一人の人が撮っているのではないのでは?という意見がありますが、それはどう思います?
在本:すごくやだなと思った時もあるんですけど、今は逆に、それがおもしろいのかなって。
後藤:それはどうして変わっていったんですか?
在本:一人の中に多様なヴィジョンがあってもいいじゃんって思えるようになったんですよね。一時はまとまりが欲しいと思ったこともあるんです。でも、今は全然そうは思わない。自分なりのまとめ方があるって、なんとなくわかりはじめたから。私の場合、移動している間に起こることを撮っているといっても、一カ所、たとえばアフリカ・ケニアに行きましたとまとめたような写真と種類がちがうでしょう? そういうものにはしたくないし、どっちにしろならない(笑)。
後藤:ある人が、在本さんはテーマを決めて撮影しないんでしょうか?と言っていたけど、その問いは本質的にあなたが探そうとしているものがわかっていないんじゃないかと思います。
在本:「移動している自分」がテーマですね、言ってみれば。
後藤:つねに移動し続けなければいけないね。
在本:できるところまでやりますよ(笑)。
後藤:ベッドで横になりながらも、ベッドごと移動しないといけない。
在本:すごいね、空飛ぶベッドだ(笑)。
後藤:フライング・ベッドだ、今度は。
在本:でも、そのね、肉体的に限界がくるかもしれないから、そんなずっと移動しつづけることは難しいのかもしれないけど。
後藤:レニ・リーフェンシュタールも、おばあちゃんになってヘリコプターでスーダンに行って、しかも飛行機おっこちたけど死ななかったし。
在本:そう、おもしろいと思ってるんだから、やり続けたらいいと思う。
5
自己テスト中毒
後藤:アフリカへ行って、自分について気がついたことって何かありますか?
在本:そうですね、「やっぱ大丈夫だなー」と思った(笑)。この旅で一番不安だったのは、肉体的に大丈夫か、病気にならないかということなんです。意外に大丈夫だった。これでまた、次に行く気がおきるな。もしそうでなければ、わりと境目になる旅行だったと思うんですよ。
後藤:境目というと?
在本:これから行く場所の種類がかわるかもしれないっていう。もうちょっと楽なところに行くようにしようと思うようになっちゃったり。でもならなかったですね(笑)。
後藤:いい旅でしたね。そのうち、南極とかヒマラヤあたりも行きそうな気がします。
在本:ははは(笑)。あ、でもアラスカは行ってみたいですね。
後藤:ふつう旅の写真家は、「アラスカ紀行」や「アフガニスタン紀行」という1つの旅で写真集を作るじゃないですか。そういうふうにしたい気持ちはないですか?
在本:インドはすごい好きなんですけど、でも、インド放浪記をやろうとはあんまり思わないですね。もっといろんなバリエーションが欲しいんです。これも見たいし、あれも見たいという気まぐれな気持ちが強いので。
後藤:気まぐれのままに、ということですね。
在本:そうですね。ものすごい短時間で長距離を移動するということを習慣化して13年経ちました。その移動の合間に、2泊3日の旅でまたちがうところを見ていく。そういう短いリズムでシーンを見る、自分の目の前を過ぎる光景をどんどん変えていく。それが必要不可欠になっているんだと思います。
後藤:中毒ですね。
在本:でもね、だからと言って、いろんな場所へ行って何か見れば、何かが変わるわけではない。実は、そんなことぐらいで変わりたくないとも思うんですよ。
後藤:変わりたくない?
在本:意固地になるのではなくて、いろんなものを見ていたいというか。
後藤:自分を素材にして行きたいということですね? 自己テストだ。
在本:そう、テストです。私だったり、私みたいな人が、ここにいたらどうなるのかなって、ちょっと実験してるところ。あともう一日深夜バスに乗るなんて、きびしいからやめとけ!とか言ってる自分もいるわけです。
後藤:それをクリアすると、「爽快さ」も含めて、ある種の自由が得られるというか、ちょっと違和感をやっつけられる感じがあるんでしょうね。自分に対する違和感や、運命に対する違和感とか。
6
これからの旅
後藤:次、行きたいところはどこかありますか? 旅の予定は?
在本:前から行きたいと思ってるところは、モンゴル。モンゴルは行ってみたいです。ただ、今回の旅でちょっと思ったんですけど、内陸っていうのは自分にあんまり合ってないのかもしれない。
後藤:海、ですか。
在本:少し海のあるところのほうがいいのかも。でも、移動する人を見てみたいという気持ちがあって、それでモンゴルって言ってるんですけど。
後藤:じゃあ、例えば海で移動する人を見てみるとか。
在本:あ、いいですね。回遊民とかね。
後藤:船乗りとかはどうですか?
在本:すごくいいですね。船乗りって、なんかすごく親近感がわく人たちなんですよ。
後藤:この間も撮ってましたね。
在本:本当に、なぜか親近感がわく。今回も、筏の乗組員が、まだ12才の男の子から60才の長老まで、全部で8人いたかな?
後藤:その筏でニジェール川を渡ったんですか?
在本:渡りました。
後藤:それは一晩かかって?
在本:丸二日ですね。
後藤:ずっと乗ってるんですか?
在本:途中ちょっと荷を下ろたり、入れたりっていうので停まります。
後藤:すごい大きな川なんだ。
在本:大きい、大きい。川幅はものすごく変化して、広いところでは、ほんとに向こうが見えないくらいあるんだけど、狭いところでは、せいぜい70mぐらい。
後藤:それは写真に撮りましたか?
在本:撮りました。あの船の感じってのは貴重だった。そういう船で川を下るのは、ブラジルのアマゾンでやったこともあったんですけど、その時は船が大きかったので、全然事情がちがって。今回は本当に大型だけど筏なので、ほんとすごい! あれで、よく丸二日、なんの事故もなく行けたなって。
後藤:でもよかったですね。嵐とかそういうことがなくて、ラッキーだったね。
在本:一回ね、長距離バスに乗ってる時に、ハルマッタンがきて。
後藤:ハルマッタン?
在本:砂嵐。すごいんですよ、本当に。雨もまざって、ほんとに見えなくなっちゃうの。もちろん車は動けなくなるから、そこで止まる。この車ここで止まっちゃうと、砂に埋もれるんじゃないかなというぐらいの勢いの、砂の雨みたいな感じ。恐ろしいものだなと思った。でも、そんな中でも、時間になったら、みんな外に出て、砂漠の上でお祈りする(笑)。
後藤:コーランか。すごいね。謎の生き物だね、人間は。
7
FUTURE SOURCE フューチャー・ソース
ジョン・キャメロン・ミッチェル
今新しい映画を作っているとのこと。楽しみ。
アルモドバル監督も今新しい映画を撮っていると聞いています。早く観たい、そしていつか撮影させてもらいたい。
快適な生活環境づくり
時差のない生活に入ったのをきっかけに、自分の家を今までの様な仮住まい感覚ではなく、素敵な居心地のいい場所にしたい。
めちゃくちゃやりたいことを続けること
自分を解放してもっと広がりたい。
美味しいものを自分で作って食べること
すなわち自己管理を快適にすること。
読書
いろんなことをもっと感じて、知りたい、学びたい、それを活用して世界を広げたい。
8
被写体に恵まれるのがすべて
後藤:境目という話が出たけれども、今回の経験は自分の写真にとってプラスになりましたか?
在本:この旅では、カメラが壊れるというすごいハプニングがあったので、どうサヴァイヴァルするかっていう訓練にはなったと思います。中判で撮ると、「撮った!」という実感がすごくあるんですよね。それが、小さいコンパクトカメラだと、もうスナップみたいにガシャガシャ撮れちゃう。でも、どこまで撮れてるかに対する確証がなくて、帰国してからネガがあがるまで不安だった。でも見てみたらけっこう良かったから少し安心です。あとはやっぱり、人が撮れるようになったなぁ。
後藤:この2年ぐらいの間に、徹底してそうなった。
在本:意識的にやってるってこともありますけどね。
後藤:その中判から3×5に戻ったわけじゃないですか。それはどういう感じかなあ。
在本:映画的ですね。横に長いし。
後藤:そのものに迫るっていうよりも、風景になるからね。
在本:正直言ったら、ランドスケープを撮ってる時は残念でした。
後藤:ディテールが撮れないといらいらする。
在本:これ、中判があったらなってすごい思った。
後藤:でも写真はもう写るものしか写らないから、しょうがない。
在本:そうそう。
後藤:写らないものは写らないからね。そういう意味ではよかったかも。
在本:ほんとそうだと思う。カメラじゃないんだよね、全然。被写体に恵まれるのがすべてなんだな。
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カメラ越し・8年の月日
この写真は、TSでもよく撮影してくれているノジョーこと高木俊幸が1998年当時、在本彌生を撮影したものだ。『Magical Transit Days』刊行記念トークショーで2人は8年ぶりに再会し、高木くんはインタビュー前半のポラロイド写真を撮り下ろしてくれた。(高木俊幸による後日談はこちら→ )
写真にこめられた「思い」「匂い」「懐かしさ」etc. 記録としてだけでなく、かくも不思議な感覚を呼び起こさせる「写真」の力は、やっぱり魅力的だ。

